『朱槍(しゅやり)』
それは選ばれた者のみが持つことを許される、
勇者の証であった。
上杉家でも余程の武功があるものが
主君、景勝の許しを得て
やっと持つことが認められるものであった。
が、前田慶次に至ってはこの朱槍を平然と持っている。
上杉家でも剛勇の士である、
水野藤兵衛(みずのとうべえ)、藤田森右衛門(ふじたもりえもん)、
韮塚理右衛門(にらずかりえもん)、宇佐美弥五右エ門(うさみやごえもん)の
四人ですら未だ朱槍を持つことを許されていない。
彼らからすれば、外様の組外衆(くみほかしゅう)の
一武将である慶次が
朱槍を持つことは当然気に喰わない。
そこで慶次に強談判するのだが、慶次は、
「この朱槍は前田家伝来のものであるゆえ」
と飄々とこれをかわす。
そのため四人は直江兼続に、
「我ら上杉家中において、数々の武功を立ててきました。
願わくば我々にも朱槍を持たせていただきたい。
もし駄目なら慶次殿にも朱槍を禁じてほしい」
と申し出た。
うるさがた4人の申し出にどうしたものかと
悩んだ末に、
『戦働きが慶次に劣るようであれば取り上げる』
という条件で彼らにも朱槍を持つことを認めたのだった。
後の最上との戦いで
慶次を含めた、この5本の朱槍が火をふくことになる!!